楽しい漢和辞典選び(追記 25.4.25.)
言葉に興味があるのなら漢和辞典。発想が広がり、創作につながるかもしれない。
○なぜ漢和辞典か
国語辞典はあいうえお順。音による配列なので、散漫な印象。
一方、漢和辞典は同じ漢字を使った熟語が並ぶ。それぞれの意味が近く、類語的。数珠つなぎ、連鎖がある。知識として連関させやすい。
○漢和辞典は二種類ある
A.漢文や中国語としての解説がメイン(本来の漢和辞典)
B.日本語としての解説がメイン(近年出てきた漢和辞典)
私は創作の友としての使用を想定しているので、Bの辞典をさがせば良い。
学習や、漢字本来の使われ方を押さえたい人は、Aをえらぶと良いと思う。
B. 日本語重視の辞典 *印:所有している(していた)辞書
・新潮『日本語漢字辞典』*
新潮の強みを活かし、近現代の文学作品から用例を掲載。新潮文庫から抜粋しており、巻末に出典一覧。また300ページにわたって熟語索引を掲載、これは強力。サイズは他の辞書よりかなり大きなサイズで高額。
・三省堂『新明解現代漢和辞典』
訓読みに強く、中古/中世/近世別に記載。漢語と日本語の区別が明確。日常語にも目配りがある。
・岩波『新漢語辞典』*
字間行間広く、ゆったりした景色。見出し数や熟語数は少なめだが、使える逆熟語を多く掲載。熟語の使用例も多く、国語辞典のような丁寧な説明文が最大の特色。
A. 漢文重視の辞典
・小学館『新選漢和辞典』*
熟語数が多い。説明が親しみやすく、同義の熟語もまめに挙げている。欄外にある見出しが充実、索引を使わずに目的の漢字を探せる。中国の昔の物品や官位名よりも、一般的な語を優先。逆熟語の記載あり。
【第七版、第八版/通常版(やや幅狭い)、ワイド版(一般的な辞書の幅)の比較】
・掲載熟語:増減あり。八版では「一円」の項目から「貨幣の単位で百銭」の記載が外れるなど、実態に合わせて改定されている模様。ただし「銭」の項目ではどちらも記載あり。一方で、「起」の項目からは「起重機」「起爆」が削除されており、全体に内容を漢語寄りへと改めたのかもしれない。
・レイアウト:通常版は文字は小さいがゆとりがあって品がいい印象。ワイド版は文字が大きめ、でっぷりした印象。
・紙質:八版の新装版では軽いものに変更されたとのこと。
触ってみて、旧版はサラッとしっとり、新装版はつるりとしてパリパリで腰のある感じがした。旧版は一部の通販サイトで再販価格(定価よりかなり安い、2025年4月現在)で販売されている。
・大修館書店『新漢語林』*
文字は大きめだがぎっしり。コラムや難読字の列挙など学習向け。逆熟語の記載あり。
・角川『新字源』*
正統派で、一時代を築いた。そつなく広範にわたってフォロー。25年ぶりの新版でデザイン面を刷新した。逆熟語の記載あり。
・三省堂『漢辞海』*
ゴリゴリの漢和辞典。漢文にすべて和訳をつけている。訓読みや国字に弱い。
・三省堂『五十音引き漢和辞典 第2版』
レビューによれば類語辞典的にも使えて、見晴らしが良さそうな辞書。
○「梅」を調べてみた(『新漢語辞典』『新選漢和辞典』『新漢語林』)
○訓読みについて
音読みより厄介。さまざまな読み方があり、なおかつ時代ごとに変化するためキリがない。何を採用するのか、編者のセンスによる部分も大きいのではないか。
○見出し語は多い方が良い?
収録語数が多いのは、漢文からの引用や日本では使われない古い中国関連の字や言葉をより多く載せているためと思われる。日本には縁のない言葉がそれだけ多く入り混じってることになる。
○逆熟語(下つき語)
その漢字から始まる熟語に対して、下につく場合の熟語のこと。記載があると便利。
例:「星」の逆熟語…図星、明星、彗星など
逆熟語は列記のみ。熟語同様に意味が掲載してあれば理想的なのだが。(たぶん厚みが倍に…)
○熟語
辞典によって掲載されているものにかなり違いがある。また、逆熟語として掲載されているにもかかわらず、その熟語の意味を引いても載っていないケースもある。その熟語が和語であるためだと思われる。こういうところが漢語重視の辞典のもどかしさ。
次々と好奇心が刺激されるような辞書は、眺めるだけでも楽しい。引き比べてみると、より楽しい。
○複数の漢和辞典で引き比べ:どんな熟語が採用されているか、自分の好みの解釈もわかる。
○漢和と国語辞典の引き比べ:漢和辞典の熟語の多さを実感。新明解国語辞典の説明文が少し過剰だったりするのが見つかると愉快。自分の言葉に対する感覚と比較できるのも良い。
○漢字や辞書の特徴が見えてきて、いわゆるキャラが立つのも面白い。
言葉を言葉で表現する、そんな無茶な仕事に汗をかいているのが辞典というものなのだ。